ボサノバシンガー 田坂香良子 -KAYOKO TASAKA-

コラム

芸能、芸術、芸人、芸能人、芸事、かくし芸。
芸の肥やし、芸は身を助ける、芸のためなら・・・・

芸って何だろう。辞書で引くと
(1)習って身につけるわざ。特に、伝統的な演劇・音楽などの、一定の型に基づく表現の仕方。芸能。技芸。
(2)人前で演じる特殊な技術。曲芸。
なるほど。習って身につけるわざなのですね。

年末に歌舞伎を見に行ってきました。
京都にいたころは祖母と一緒に毎年年末に南座の「顔見せ」に行ってましたが、それはその時に出る料亭のお弁当目当てのようなもの。「歌舞伎=お弁当」っていう感じで、歌舞伎のすばらしさとかおもしろさとかが、まったくわからないまま過ごしてきました。
ところが、数年ぶりに歌舞伎を見て、感動の嵐。
最初は5時間も耐えられるかな、とかなり不安だったのですが、もう見ているうちに見入ってしまって。
さすがに終わった時にはぐったりしたけれど、それはあまりにも真剣に見てしまったから。
本当にすごいと思いました。何がそんなにすごいか。
それは、役者さんの芸。

歌舞伎ってすばらしいエンターテイメントなんだということが改めてわかりました。
日本人としていままで知らなくて恥ずかしい限り。
芝居あり、踊りあり、歌ありで、どれ一つとってもすばらしく高いレベルの芸なのです。
あたりまえのことなんだけど、そのあたりまえのことに感動したのです。
何年も何年も毎日毎日努力をして「身につけたわざ」が、生の舞台を見ているとビシビシ伝わってくるのです。
きっと私自身が歌を歌うようになって、そういう芸事を見る目が変わったのだと思います。

以前は、役者さんなんだから上手に演じられてあたりまえ、上手に踊れてあたりまえ、って外側から見ていました。でも、その裏にどれだけの努力の積み重ねがあるのかがわかるようになったっていうか。
何日も続く興行の間、昼も夜も、真剣勝負の舞台を続けることの大変さ。本番で最高のものを出せる集中力のすごさ。才能ももちろん大切だけど、積み重ねる努力というのが本当は一番すごいことなんだということがわかりました。
芸とは習って身につけるものなのですね。

でも、どうしてこれだけ感動したか、というと、演出や脚本もすばらしかったからだと思います。
歌舞伎というのは、「古典芸能で、解説がないとよくわからないもの」というイメージもあったのですが、今回観たのはとてもわかりやすく、普通のお芝居のように何の抵抗もなく入っていけました。
伝統の芸を継承しつつ新しいものも取り入れて、お客様を引きつける努力を惜しまない。
少しでもいいものを、少しでも喜んでもらえるものを、と考えていくこと。
芸事は、歌舞伎でも音楽でも同じだと、見終わってしみじみ思いました。

そして年が明けて、今度はオペラを見に行ってきました。
ドイツ語がわかればもっと楽しかったのに・・と見終わって思いましたが、こちらもやはりハイレベルの芸。

なぜか突然「芸術」づいてしまった年末年始。
今年はいい年になりそうな、そんな予感がします。