ボサノバシンガー 田坂香良子 -KAYOKO TASAKA-

コラム

コロナ自粛2か月半 今思うこと

コロナ自粛2か月半 今思うこと

このコロナの感染が始まってから、比較的早い段階で、医者の友達のアドバイスに従って、自主的に外出自粛を始めてから、そろそろ3か月が経とうとしています。
当初は、友達が一生懸命私に医療現場の話をしてくれ、どれだけ本当は大変なことなのかを聞いても、にわかには信じられず、そうは言っても、一か月くらいで終息するんじゃないかな、なんて思っていました。でも、あまりにも親身に私と家族の体を案じてくれるので、アドバイスに従い、なるべく家族以外の人とは会わず、自宅に籠っても快適に過ごせるように部屋の片づけをしたり(笑)、ベランダにテーブルになるような物入を買ったり、食料品を買ったりして、一か月は籠城できるくらいに整え、そしてライブはできる限りキャンセルの方向でお願いし、できない場合は、共演者にお願いしてソロで演奏していただいたりしました。それが2月の後半。
その頃、世間は、まだ自粛ムードはほとんどなく、ライブなども普通に行われていて、私がキャンセルしたい旨伝えると、神経質になりすぎているのでは、とか、生活がかかってないからそういうことが言えるんだ、と暗に言われたりして、そのたびに悩みました。自分が提供する場で、もし万が一何かがあったとき、いらしてくださったみなさんはもちろん、お店にも、共演者にも迷惑をかけるし、万が一私が感染してしまったら、いわゆる「ハイリスク」といわれている年代の家族に感染してしまう。そう思ったら、ライブはできませんでした。当たり前だけど、命は何物にも代えられないことで、その当時はウィルスの正体が全くわからず(今もわからないことが多いですが)、治療法も確立しておらず・・・。
なので、当初は共演者、お店、お客様、それぞれみなさん一人一人考え方が違って、どうすればいいかわからず、かなり悩みましたが、結局、今まで応援してきたくださっているみなさん、そして私の一番大切な家族を守るためには、キャンセルするしかないと、自分の思いを通しました。

3月はそういうわけでライブはほとんどキャンセル。唯一、カナユニでだけ歌わせていただきました。環境としてソーシャルディスタンスもとれるし、お客様と直接お話することもないし、という判断で。
ライブをせず、ずっとウチにいる間、いろいろ考えました。共演者からいわれたことを考えたり、他のミュージシャンがこういう状況の中でもライブを続けているのをみたり、そこに大勢のお客様がいらっしゃる様子をみたり・・・・。そうこうしているうちに、自分が歌うということにどれだけ意味があるんだろう、最初から意味なんてなかったんじゃないか、なんで歌っているんだろう、私の歌を聴いてください、なんてよくまあいままで恥ずかしげもなく言ってきたなぁとか、いろんなマイナスな方向に思考がいき、負のラビリンスに迷い込んでしまいました。カナユニで久し振りに歌わせてもらったときは、歌いながら、私はやっぱり歌うことが好きだ、としみじみ思ったけれど、でも、ウチに帰ったら、やっぱり、またラビリンスへ逆戻り。
4月はカナユニさえお休みして、一度も外に出ず。
ウチの中では、ギターの練習したり、オンラインレッスンでギターのレッスンしてもらったり、歌は歌っていましたが。
でも、多くのミュージシャンのように、演奏していないと、歌っていないと生きてる感じがしない、とか、歌いたくてしかたない、とか、そういうことは一切思わなかったので、私はやっぱりそこまで音楽にのめりこんでいないんだと、また自己嫌悪におちいる日々でした。
自宅に籠っての生活は、それなりになんとか明るくまえむきに、と思い、いろいろやっていましたが、心の奥底ではいつも、これからの音楽活動についての悩みが付きまとっていました。

でも、昨日、友達といろいろラインで話をしたときに、気が付いたのです。
私には、この20年以上、常に歌があった。そして、今、私の周りで私を支えてくれているみなさんのほとんどが歌を歌っていたから出会えた人たちなんだということに。
私はそのことに感謝することをすっかり忘れていたのです。歌えるということ、支えてくださる皆さんがいてくださること、そして応援してサポートしてくれる家族がいるということに感謝するということを。
いちばん、感謝しなければいけないことなのに。
私の人生を今まで支えてくれたのは、歌だった・・・・。
たったの20年ではあるけれど、ずっと続けてきたこと、そして続ける中で経験したことは、今の私のほぼすべてです。20年・・・。人生の1/3なのだから。
それに気づかせてくれた友達には心から感謝します。

今もウィルスの正体がはっきりわかっていないし、医療体制もまだまだ危機的状況で、ワクチンも開発されていない。治療法もかなり進んではきていても、まだまだ安心というレベルにはない、こういう状況で、やっぱり私はライブはできないと思っています。
でも、いろんなことがクリアになり、元の生活、には戻らないまでも、これならライブができる、と自分で判断できたときには、また歌いたいと思っています。

その時、一緒に演奏してもいいといってくださるミュージシャン、そして応援しようとおもってくださる方々がいてくださることを祈りながら。
そして、それまで私が元気で生きていられることを祈りながら(笑)。

あとどれくらいでその時がくるかわからないけれど、とにかく、これ以上、このウィルスで苦しむ人が増えないことを祈る毎日です。

2020年5月12日。

(2020.05)